2016/07/08

おしゃれ 駅 牛乳

 カテゴリも新規で作ったし、せめて2回くらいは三題噺を書こう。
 というわけで、三題噺お題ジェネレーターでなんとか書けそうなお題が出たので書きました。
 …いや、書けそうなお題を探すんじゃなくて問答無用で提示されたお題で書かなきゃ意味が無いんですけども。そこはまあ、自分課題なので大目に見てます(オイ

 今回は「おしゃれ」「駅」「牛乳」です。

 


     『変わるもの、変わらないもの』


 特に理由は無かった。と、思う。
 連休は何もすることがなく、部屋でゴロゴロして過ごす予定だった。
 早起きして、満員電車に揺られて出社して、暑い日も寒い日も雨の日も風の日も、足を棒のようにして営業に回り、得意先の機嫌を取って、押し付けられた無理難題をどうしようかと頭を抱え、終電間近になんとか目処を立てて、帰宅する。誰もいないワンルームに明かりをつけて、取るものも取らずにベッドに倒れ込み、疲れ果てた身体と精神を一秒でも早く休めたくてそのまま眠る。
 この変化の乏しいルーティンをもう十何年続けただろうか。
 給料は悪くない。休みもある。だが、仕事は休まる暇もないほど忙しい。趣味だった読書も音楽も、もう何年やってないんだろう。数えるのも疲れるし面倒だ。
 一体、何のために働いているんだろうか。もうすぐ四十の足音が聞こえるのに、自分は何を?
 そんなことを考える余裕すらない。自分がすり減っていっている、その自覚もいつからか麻痺してわからなくなっていた。
 だからなのか。
 理屈も何も無く、気が付くと俺は故郷に向かう列車に乗っていた。満員電車とは比較にならないガラ空きの車両に揺られ、田園風景の中を戻っていく自分を、どこか他人事のように見ていた。
 もう何年、故郷に帰っていないのだろう。すっかりその風景も忘れてしまったはずだ。
 なのに、妙に懐かしいような気がして、乾いてしぼんでいたノスタルジーに一滴の潤いが落ちた。
 高校時代、毎日眺めていた風景が車窓に流れ始めた。列車を降りる駅が近づいている。ゆっくりとスピードを落とし、耳障りなブレーキの音を立てながら、列車はくすんだコンクリートのホームに滑り込み、やがて停車した。
「……こんなだったか……?」
 降り立ったホームは、記憶にあるものとは少し違っていた。古臭い木造建てだった駅舎が、レンガ造りのおしゃれなものに変わっていたのだ。
 もっとも、この町を離れてから二十年近く経っているのだから、建て替えくらいはしててもおかしくないだろう。田舎だっていつまでも古臭いままではいられない。
 しかし、懐かしさを感じている身には、その変化は少し寂しいものだった。記憶にあるその姿を見たかったと、身勝手な悔しさに震えそうになる。
 ホームを進み、改札を抜けると――駅前は駅舎の比ではない変化具合だった。その単語からは最も遠いと思っていた広場は、おしゃれな空間になっていたのだ。まるでいつも通勤に使っている駅のようじゃないか……
 故郷に帰ってきた、という意識はその風景に吹き飛ばされた。
「…………」
 ずしん、と心の奥に重い物がのしかかったような気がした。眩暈にも似た視界の揺らぎに周囲が回転して――
 ――それが目に飛び込んできた。
 駅前の一角にある、古ぼけた小さな商店。おしゃれな店に埋もれるように、ひっそりとたたずんでいるその店を目にした瞬間、ぶわっと全身を何かが駆け抜けた。
 懐かしい。ただ、その一言。
 ふらふらと引き寄せられるように足が勝手に動き、店の入口に立つ。少し開くのにコツがいる立てつけの悪いガラス戸を開くと、埃っぽい匂いがした。所狭しと並んだ駄菓子と、低くうなるような冷蔵庫に並べられた飲み物。まるで時の流れから切り離されたような昔の面影が、ここにはあった。
 高校生の頃、毎日のようにこの店に通い、少ない小遣いを散財したものだ。その中でも欠かさずに買っていたのが――
「牛乳、ください」
 と、あの頃のように言った。高校生の頃は背が低くて、少しでも身長を伸ばしたくて、ここで牛乳を飲むのが日課になっていたのだ。
 店番をしていた老婆はよいしょと立ち上がり、冷蔵庫からビン入りの牛乳を取り出した。そのよく冷えた牛乳をひと口呷る。
 なんてことない、普通の牛乳だ。特別美味しいわけでもない。何も変わっていない。
 しかし、その変わらなさが今は何よりも嬉しかった。
 変化の無い日常に辟易していた自分が、変わらないことを喜んでいる。
 それは、不思議な感覚だった。
 俺は変わりたかったのだろうか。それとも変わりたくなかったのだろうか。
 正直言って……よくわからない。
 わかるのは、この牛乳が美味いということだけだ。
 ぐいっ、とビンの残りを一気に飲み下し、空っぽになったビンと代金を老婆に渡し、店を出た。

 そのうち、わかるだろう。
 そう思う事にした。



          終





 オチを考えるのが面倒になってブン投げました。
 ダメですねー。お題とオチを考えてから書かないと……。

 ま、これも勉強のうちということで。

 
三題噺の練習 | Comments(0)
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