2014/02/25

短編小説 『見えない尾行者』 前編

 なんとなく探偵モノっぽいものを書いてみようと思ったけどその実全然探偵モノの欠片も無い作品となってしまいました。なんだっけ、十戒とやらも完全無視ですし。

 とりあえず、読者様の一瞬の暇つぶしになればいいな、と願いつつ。
 しかし書いているときは面白かったのに、書き終えて読み返すと中身空っぽで困る。
 まぁ、物語を書く上で最も重要なのは「破綻していようがなんだろうが最後まで書き切ること」だそうですので、それを第一目標にしてみました。とか言い訳しておきます。



 この作品は創作です。登場する人物・名称・地名等は実際の物と何の関係もありません。


 この作品には四季娘さんが登場します。
 四季娘さんは「あくあどろっぷ」さんの看板娘たちで、工房メイドより動かしてて楽しいという(以下略
 ちなみに登場させるに当たって許可を取ってませんが、笑って許していただけることを期待しています(コラ

 


 田舎町の田園風景にはあまり溶け込んでいない、やや大きめな二階建ての洋館を表門の正面から見上げ、意を決したようにアプローチの石畳に足を踏み出した。
 紺色のセーラーカラーと長いスカート、銀糸のごとく長い髪が彼女の歩調に合わせて揺れ、重そうな木製の玄関扉の前で立ち止まるとそれらも落着きを取り戻した。
 壁に備え付けてあるボタンを押すと、ちりりりん、と可愛らしいドアベルが鳴り、しんと静まり返る。しばし待ち、ベルが聞こえていないのだろうかと考え始めるその寸前になって、ようやっと扉の向こうに足音が聞こえてきた。ひとまず安堵する。
「お待たせしました」
 応対したのは、黒髪でメガネをかけたメイドだった。碁石のような真っ黒で真ん丸な瞳がじっと彼女を見つめ、その表情がさっと緩んだ。
「あ、冬花ちゃん。いらっしゃい」
「ちわっす、メイリンさん」
 顔見知りのメイドに挨拶し、清水冬花は軽く頭を下げた。メガネのメイド――メイリンは冬花をエントランスホールに招き入れ、そのまま応接間へ案内した。来客はホールのソファで一旦待たせるのがここ八重崎工房での通例だが、冬花は心安い相手なのでその過程はスルーされる。
「今日は一人? またアレッサさんから呼び出されたの?」
「いや、まぁ、アレッサさんに用があるのは確かなんスけど、呼び出しじゃないッス」
「?」
 冬花の言葉にイマイチピンと来なかったのか、メイリンは少し首を傾げた。アレッサに呼び出される以外に冬花が工房を訪れることは滅多になく、この反応も至極普通と言える。
「じゃあ、アレッサさんを呼べばいいのかな」
「はい。それと、工房主さんもお願いできますか」
「らじゃ。お茶を……あ、冬花ちゃんはコーヒーだったかな。用意してくるから、ゆっくりしててね」
 言ってメイリンは恭しくお辞儀して応接室を出た。


 運ばれてきたブラックコーヒーを半分ほど味わったところで、ノックと共に応接室のドアが開いた。冬花が席を立って振り返ると、ミルクティー色をした長い前髪で顔を半ばまで隠した三つ編みのメイドと、金髪を頭の左側だけでサイドテールにした蒼眼のメイドが入ってきた。
「お前があたしを呼び出すとは珍しいな。元気にしてたか、フユカ?」
 金髪のメイドが冬花の肩をぺしぺしと叩きながら笑った。切れ長の鋭い目つきの美人だが、今は子供のような無邪気な笑みを浮かべているので『豪快なお姉さん』といった雰囲気だった。冬花が抱く『メイド』のイメージからはかけ離れているのに、肩フリルの付いたエプロンドレスと彩度の低い薄紫色のメイド服がしっくりと馴染んで見える。
「あ、ども。アレッサさん」
「いらっしゃい、冬花さん。どうぞ、おかけください」
「ローナさんも、ご無沙汰してます」
 三つ編みのメイド――ローナに促され、ソファに腰を下ろす冬花。アレッサ、ローナの両者が正面に座るのを待って、冬花は話を切り出した。
「あの、工房主さんは?」
「あー、マスターなら気にすんな。ローナが代わりにお前の話を聞くから」
「具合でも悪いんスか」
「いや? 女子高生と話したら逮捕されると思ってるらしいんだよ」
「…………?」
「見た目がヲタ臭いのって何かと損だよな。メイドを囲ってるから余計に偏見があるしさ」
「…………???」
 はっはっは、と笑うアレッサに対し、冬花はどう反応していいかに困り、引きつり笑いを浮かべた。
「つーわけで、ローナに来てもらった。どんな相談か知らないけど、マスターよりずっとマシな助言がもらえるはずだ」
「そ、そッスか……」
 なんとなくこの話題に突っ込むのはよくないと直感し、冬花は本題に入ることにした。できれば工房主かメイド長に話をしたかったが、無理なら仕方がない。『工房の魔王』と呼ばれるローナに相談するというのが若干……というかかなり不安ではあるものの、今はそうも言っていられない事情がある。
 カップのコーヒーで口を湿し、冬花は話を始めた。
「実は、アレッサさん……というか、工房のみなさんに仕事を依頼したいんスよ」
「ほう? 珍しい上に珍しいことがあるもんだ。お前があたしらに依頼だって?」
「ええ。ちょっと自分たちじゃ手に余るんで……」
 口ごもる冬花の様子にアレッサは軽薄な笑みを引っ込め、真面目な表情で正面の学生を見る。同じ銀髪でも工房メイド長であるヴィアーチェとは若干色味の違う、青っぽい銀の前髪の奥に覗く灰色の瞳が少し揺れていた。
「詳しく話してみな。舎弟の頼みとあっちゃ無視できねぇからな」
「あたしはアレッサさんの舎弟になった覚えはねースよ」
 軽いジョークにしっかりとツッコミを返して、冬花は続ける。
「誰かに尾行されてるんスよ」
 端的で不穏な単語が飛び出してきて、アレッサとローナは同時に眉根を寄せた。
「尾行? お前が?」
「いや、あたしじゃなくて。ハルですよ」
「春菜さんが、ですか?」
 確認するようにローナが訊くと、冬花はそうです、とうなずいた。
 桜木春菜。冬花の同級生の女子高生。明るく屈託のない笑顔が可愛く、大変優しい心の持ち主で、皆から慕われている。常に帯刀しているが抜刀することはほとんどなく、剣術の腕前は相当なものと思われるが目の当たりにした者は少ない。
「春菜さんが尾行されるような心当たりは?」
「無くはないですけど……」
 と冬花はアレッサを見る。
 その目は春菜にただならぬ興味を持っている『工房の百合魔人』ことアレッサを指していた。この百合魔人ならやりかねないと思っているのだろう。
 その視線の意味に気づいたローナが、意地の悪い笑みを浮かべて金髪メイドに目をやった。
「……そうなんですか?」
「いや待てローナ。あたしなら尾行とかしち面倒臭いことせずに直接捕獲しておっぱい揉んだり舐めまわしたりするぞ?」
「…………」
 そっちのほうが危険人物だー! とツッコミを入れたくなる冬花だったが、すんでのところで踏みとどまった。この姐御にヘタなツッコミは無意味かつ無駄だとこれまでの付き合いで知っている。
「アレッサさんじゃないッスよ。尾行してるヤツの気配っつーか雰囲気がアレッサさんとは違いますし」
「だったら余計な誤解させるような目で見るんじゃねーよ。窒息するまでお前の唇をちゅーちゅー吸うぞコラ」
「すんません、それはマジで勘弁してください」
 適当にはぐらかすと冗談抜きで唇を吸われるので本気で謝る冬花。
 アレッサはつまらなさそうにため息を吐いて、勝手に冬花のカップに残るコーヒーを一気に飲み下した。さすがに品の無い行為だとローナが無言で抗議するが、アレッサは気づかないふりをした。この場にヴィアーチェがいたら死ぬほど怒られているところだが。
「……で、その尾行ってのはいつからだ。尾行してるヤツってのはどんなヤツだよ。気配がわかってんなら姿くらい見てんだろ?」
「それが、気配はあるんスけど姿は見てないんスよ。追いかけようとしたら煙みたいに消えるし」
「……それ、ナツミじゃねーの? あいつ忍者だろ?」
 火撫夏海。冬花の同級生で忍者で食いしん坊でちびっ子で元気っ子。行動原理がメイリンに近く、美味しいものの気配があるとすぐにつられて姿を消す。わかりやすく言うなら『行動予測不能』の一言である。
「あたしのすぐそばで一緒に下校してても尾行の気配があるんスよ。ナツは違う」
「分身の術とか」
「何のために?」
「……おもしろいから?」
「アレッサさんじゃあるまいし、ナツは無駄にハラが減ることはしねーッスよ。そもそもナツが何かやってて、あたしやアキが気づかないはずないじゃないスか」
「そうか……あのアキエが気付かないはずないわな」
 ふむ、とうなずいてアレッサは後れ毛を掻き上げる。
 金本秋絵。冬花の同級生でメガネで性悪で手品師で手癖が悪く知略に長けていつも笑顔で人を欺く要注意人物。他人を翻弄するのが好きで、口から出る言葉の大半が嘘であるというから恐ろしい。アレッサはなんとなくソリが合わない彼女を苦手としているが、頭の良さや洞察力に関しては一定の信頼を持っている。
「春菜さんが尾行されるようになった前後に何か変わったことはありませんでしたか?」
「そッスね……」
 ローナの質問に、冬花は天井を見上げて記憶を掘り起こした。
 小テストの成績が良くて上機嫌だったこと、学生食堂の新メニューが売り切れで食べられなかったこと、書庫の整理を手伝って踏み台から転げ落ちそうになったこと、少しだけ髪型を変えたこと、英語の授業で教科書を忘れてアタフタしたこと……と、春菜の最近を思い出してみたが、これと言って重要と思われることは無かった。
「特には……いや、そういえば」
「何か?」
「関係ないかもですけど、ハルの体操着が無くなったことがあるんスよ。その日の午前の体育の授業で使った体操着を教室に置いてたんスけど、放課後に持ち帰ろうとしたら無くなってたって」
「は……ハルにゃんの使用済み体操着……だと?」
「アレッサさんはしばらく黙っていてください」
 話が脱線する気配を機敏に感じ取り、ローナは機先を制して百合魔人を黙らせてから冬花の言葉を促した。
「まぁ、予備があるんで別に今は困ってないんスけどね。それで、無くなったやつはまだ見つかってないんスけど、紛失は校内でのことですし、ウチのガッコは外部からの来訪者の監視が厳しいんで、多分今回の件とは無関係だと思います。尾行されるのは下校の時だけですし、尾行者はガッコの関係者以外の何者かだろうとアキも言ってますし」
「他には?」
「うーん…………思い当たらないッスね。今のところは」
「そうですか」
 これと言った情報が得られず、難しい表情でうつむくローナ。尾行者の動機がわかれば自ずと正体が見えてくると思っていたが、そう簡単な問題では無いようだった。
「なぁフユカ。尾行されてるってのはハルにゃんで間違いないのか? 他の三人の誰かってことは?」
「ハルが最初に自分がつけられてる気配があることに気づいて、その話を聞いたあたしらが一緒に下校したときに確認してますから、目標がハルだってのは確かッス。姿は見てないッスけど、気配があるのはあたしらみんなが感じてます。だから、なるべくあたしらはハルと一緒に行動するようにしてるんス。帰りは家まで送ったり、朝は迎えに行ったりで。と言っても尾行は帰りだけで、登校のときはなんともないんス。朝は一応、ってことで」
 と普通の女子高生らしからぬ武道の達人のようなことを平然と言って、冬花はアレッサの言葉を否定した。
「訊き忘れていましたが、尾行はいつからですか?」
「今日でもう二週間くらいッスね。毎日、校門を出た直後からついてくるんスよ」
 ローナの質問に答えた冬花は、自分で言ってから結構経ってるなと独りごちた。
 なるほど、と一つうなずいて、アレッサは両手を膝の上で組んだ。
「で、お前はあたしらに何をさせたいんだ? その尾行者の正体を突き止めたいのか?」
「まぁ、それができればいいんですけど、やめてくれりゃ正体は別にどうでも」
「なら警察へ行けばいい。ストーカーってやつだろ、そいつは。最近はそーゆーのに敏感に反応してくれるぞ?」
「それも考えましたけど、そうもいかないんスよ。そもそも実害がねースから、相談してもあんまり意味がねーんですよ。脅迫めいた手紙が来たりしてるわけでなし、はっきりと付きまとわれてるって証拠も無い。あたしらが『尾行されてる』って気配を感じてるだけで姿も見ていない。それじゃあ警察は動いてくれないッスよ」
「……まぁ、そうだな。お前らのことをよく知らない人間からしたら、気配を感じるなんて訴えたところで『気のせいじゃないか』で終わる話だ。ただのガキの戯言にしか聞こえない」
 言ってアレッサはソファにふんぞり返り、腕を組んで大きく息を吐き出した。我ながら無意味なことを言ったものだと自嘲する。
「そういや、アキエは何してんだよ? あいつ、何か不思議なチカラみたいなの持ってるじゃねーか。それで尾行者を退治しちゃえよ」
「それは……あいつのは所詮手品で、お遊びですよ。そんな種も仕掛けも必要な手品で尾行者をどうにかできませんて」
「そうか……アキエなら魔法でも使えそうなイメージだけど、ハリウッドじゃあるまいし現実には有り得ない話だナ」
 と再び自嘲。実際のところ秋絵は魔術が使えるが、当人は一応秘密にしているらしいので冬花もうかつなことは言わないようにしている。
 ちなみに秋絵も当然尾行者対策に乗り出してはいるが、やはり気配だけでは手出しができず春菜の守護に回るのが精一杯のようだった。尾行者の髪一本でも手に入れば何とでもできるらしいが、それも尾行者の正体が不明である現段階では叶っていない。
「それで、アレッサさん」
 あまり秋絵の話題に突っ込まれたくないせいか、冬花は少し話を逸らそうと急き込む。
「なんとか助けてもらえないッスかね。実害が無いと言っても、さすがに二週間もつけまわされて、ハルがちょっと参ってるんスよ。いつも通りに振る舞っているけど、無理してるのはわかるんで。もちろん依頼料は相応に出しますから、この通り」
「いや、改めてアタマ下げて言われなくても、ハルにゃんが困ってるんなら手を貸すつもりだし、お前らからカネを取るつもりはないさ。そもそもそれほど解決が難しいことじゃないしな」
『……は?』
 アレッサのあっさりした一言に、冬花だけでなくローナもぽかんとした顔になった。
「ど、どういうことッスか? 難しくないって……」
「あたしがお前らの通学路を見渡せるところで張り込んで、お前らを尾行する人影を見つけたら、即座にそいつを狙撃して頭をブッ飛ばしゃいいだけだろうが。死人は尾行なんてできねーからな。尾行者はお前らの動向には気を付けて身を隠すだろうが、数百メートルも離れた場所にいるあたしの存在にゃ気づきもしないはずだ。だったら幽霊でもない限り姿を拝むことくらい簡単だろ。そこを狙い撃つ。ほれ、問題解決」
「いや、ですからどうやって尾行者を特定するんスか。たまたまあたしらと同じ方向に歩いてるだけの人もいるでしょうに」
「それもほとんどは学生だろーが。確かお前らのガッコは繁華街から離れた場所だったな? だったら学生以外は目立つし、尾行者を見つけるのもそんなに苦労しない」
「…………」
 自信満々に言ってドヤ顔するアレッサとは対照的に、冬花は心底ドン引きした表情で絶句していた。冗談ではなくどこまでも本気で言っているのが理屈抜きでわかっているからである。
「いやあのそれ別の問題が浮上するんじゃあ……」
「あ? どんな?」
「アレッサさんが警察に捕まってしまうんじゃ?」
「バカ野郎、あたしが狙撃すんのにそんな証拠を残すと思ってんのか?」
 いや、そういうことじゃなくて。
 という言葉が冬花の口から出ることは無く、それ以上は何も言えなくなって黙り込み、言葉の代わりにローナへ助けを求める視線を送った。工房の魔王と呼ばれる変人メイドが素直にそのヘルプを受け取ってくれるとは思わなかったが、今は藁にもすがりたい気持ちで一杯だった。
「それも面白いですけどね、アレッサさん。オススメできません」
 冬花の意思を受け取ったか、意外にもローナはそのアイデアを否定した。
「なんでさ?」
「狙撃した後の遺体の回収や処分はどうします? 目撃者の処理や警察への対策、その他諸々の問題はどうするんですか」
「そんなもん、ローナの情報網と人脈でどうとでもなるだろうが」
「ええ、もちろん完璧にやってみせる自信はありますよ」
 できるんだ――と冬花は思う。
 謎が多すぎて得体が知れない。正体を探ろうとしても翻弄されるだけで何もわからない。それがローナに対する冬花の評価である。
「ですが、その労力と処理にかかる費用はどうします? これだけのことを私はタダでするつもりはありません。人ひとりを跡形もなく消すというそれなりのリスクを負うわけですからね」
「う……それは」
「先ほどアレッサさんは冬花さんからお金は取らないとおっしゃいましたが、あなたが支払ってくださるんですか? おそらく、一千……いえ、もっとかかるかもしれない費用を?」
「…………」
 ニコニコしながらとてつもない圧力をかけて来る魔王に怯み、アレッサは沈黙した。どうやら狙撃後のことは全く考えていなかったらしい。それがわかっていながらどんどん追い込みにかかるローナ。
「払っていただけるのでしたら、私はすぐにでも手配を始めますよ。とりあえず、三百ほどご用意いただけますか。可愛い可愛い春菜さんを救うためです、それくらいはポンと出すのが姉貴分の気風というものです。さぁ、どうしました?」
「……わかったよ、もうわかったから」
「そうですか。ではすぐに三百を……」
「違う! 狙撃はやらないって言ってんだ!」
「えぇー……」
 ガッカリしたローナ……に見えるが、心底楽しそうな笑みを浮かべているので、アレッサが狙撃策を破棄すると知りながらからかって楽しんでいるだけのようだった。
(これが工房の魔王か……あのアレッサさんをここまでからかうなんて、あたしにゃ恐ろしくてできねーよ……)
 冬花は、秋絵とはまた違った『性悪』を目の当たりにし、ぞっとした。明らかにアレッサの極端に低い怒りの沸点を完璧に見極め、限界点を超えないように且つ全力で煽っている。最悪とも言えるレベルで性質が悪い。
「……まぁ、冗談はさておき。狙撃は最終手段として取っておきましょう。現段階でできることは情報収集でしょうね」
「情報? ハルにゃんのか? なんで尾行されるようになったかを調べるわけか」
「違います。尾行者の情報です。具体的には、尾行者を尾行して、どこのどなたかを割り出すのがいいでしょう」
「なるほど。尾行者が誰かわかれば、やめるように言えばいいだけですもんね」
 ローナの意見にうなずいて冬花はポンと手を打った。そんな依頼者を微笑みながら見つめ、
「言ってやめていただけるでしょうかね」
 とローナは含み笑いを漏らした。やめない可能性よりもやめる可能性を憂慮しているかのような口調だったが、冬花はそれに気づかなかった。
「やめなきゃ『いっそ殺してくれ』と泣いて懇願するような目に合わせるだけさ」
「いや、それはいくらなんでもやりすぎッスよ。警察に任せた方が……」
 さらりと恐ろしいことをのたまう姐御に冬花が反論しようとするが、鋭く睨み返されて二の句が継げなくなった。
 アレッサは、はぁぁぁ……と大きくため息をついて、子供諭すような表情で言った。
「なぁフユカ。マジ天使のハルにゃんを二週間もつけ回して、あの可愛らしいお胸を心労で苦しめた罪が警察に突き出す程度で贖えると思ってんのか、お前?」
「そうです。せっかくの依頼ですし、少しは遊ばせていただかないと面白くありません」
「…………」
 くっくっく、うふふふ、と不気味な笑いをもらすメイド二人。犯人に一体何をしようとしているのか、それを訊くことすら恐ろしくて冬花は何も言えずにいた。
(……やっぱり工房主さんかヴィアーチェさんに同席してもらうべきだったな……)
 この二人に相談したのは間違いだったと心底後悔しつつあった。




     後編に続く

 
創作小説 | Comments(2)
Comment
みなともさん、こんばんは。
夜月です。

四季さんらがこういう風に形になるというのは。なんと言いますか。
嬉し恥かしという感じでしょうか。妙に照れてしまいます。
何はともあれ、「ありがとうございます」と述べるのが1番ですね。

前編を拝見しましたが。
アレッサさんの本性見たり。ココまで露骨な百合言動は珍しいような。
今までになく活き活きと変態していますね。

それにしてもアレッサ&ローナさんタッグとか、最強コンビ過ぎて失禁ものです。
冬花が押され気味なのは珍しいですが、この二人なら仕方ないですね。

ちなみに、前編・後編構成にしたのは良いですねー。
続きと落ちが気になります(笑)
◎ 夜月さん

>ココまで露骨な百合言動は珍しいような
ちょっとやり過ぎたと反省しております(笑
しかし、カッコイイだけじゃないアレッサも愛すべき我が工房メイドだと思うので、ちょっとくらいはっちゃけてもいいんじゃないでしょうか。
と自己弁護。

>アレッサ&ローナさんタッグ
最初はヴィアだったんですけど、アレッサを暴走させられないということで急遽ローナの登場ということになりました。
ヴィアは強力過ぎるブレーキ役なので、話が面白い方向に進まなくなってしまって…(汗

>ちなみに、前編・後編構成にしたのは良いですねー。
>続きと落ちが気になります(笑)
思った以上に長くなってしまったので、分けないと投稿できないんじゃないかと…。FC2はエキブロに比べて字数制限が緩いので大丈夫なのかもしれませんが、一応。
しかし、そのせいで期待度が増してしまっているのはちょっと想定外です。
夢オチ並みのガッカリオチですから、期待されると申し訳ない感じです。

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